2012年5月7日月曜日

【参加報告:吉藤さん】Entrepreneurship Bootcamp 2012に参加して

こんにちは!「ブレークスルーキャンプ by IMJ」運営事務局 宮本です。


先日、スタンフォード大学で行われた Entrepreneurship Bootcamp(以下、E-Bootcamp 
IMJインベストメントパートナーズではこの取り組みをスポンサードし、多くの方々から選抜された、早稲田大学 オリィ研究所の吉藤健太朗さん、東京大学都市工学科4年(休学中)で株式会社コールボードCEOの大塚淳史さんのお二人に、日本代表としてご参加頂きました。

今日、明日の2日間、お二人の参加報告をこのブログで報告します!
今日は吉藤さんからの参加報告です。ご覧ください。




---------------------------------以下 吉藤さんからの寄稿---------------------------------------

◆はじめに

E-Bootcampとは、米国スタンフォード大学の起業学生団体が主催し、有名VCでありシリコンバレーに拠点を構えるセコイアキャピタルがメインスポンサーを務め運営されるイベントだ。
各国から選抜されたビジネスプランを持つ学生をシリコンバレーの中心にあるスタンフォード大学に集わせ、シリコンバレーのツアーの他、専門家の助言や、参加者同士の意見交換によりビジネスプランのブラッシュアップを行う。 


第4回目となる今年4月に開催されたE-bootCamp 2012ではスタンフォード大学から20名、米国国内から50名、国外から30名の計100名の枠が設けられた。

起業のため準備を行なっていた私は「ブレークスルーキャンプ by IMJ」に選出され、4月10日から15日までスタンフォードの大学内で開催されたE-Bootcamp 2012に、日本代表として参加する事ができた。



◆我々のプロジェクト「OriHime」について

先に、私自身の自己紹介と、スタンフォードで紹介したプロジェクトについて説明したい。
我々のチーム、オリィ研究所は早稲田大学のインキュベーションセンターに籍を置くベンチャー起業の卵である。未だ研究開発段階であり法人登記は行なっていない。我々の制作している「OriHime」は対孤独用コミュニケーションデバイスと呼んでいる福祉機器だ。



私吉藤は、小学校から中学時代にかけての3年間半の間、ストレスと療養でほぼ学校に通う事が出来なかった経験がある。両親は共働きで家に居ない事も多く、毎日の多くは自室で独りで過ごしていた。
身体的にも精神的にも不安定な状況下の「孤独感」は更に状況を悪化させ、笑い方や日本語を忘れかけた事もあった。学校行事に参加できず、友達とも遊べず、居場所がなく、皆が私の事を忘れるのではないかという恐怖に苛まれた。


この孤独という問題は私に限った事ではない。


2012年現在、病気が理由で学校に通えていない子どもの数は文科省調べによると全国6万5千人に及ぶ。プロジェクトのパートナー結城も、高校時代に半年間入院している。
また子どもだけではなく、日本は現在“超高齢者社会”と言われ65歳以上の人口は日本人口の約25%を占めるが、その中で家族と離れ独り暮らしをする高齢者も増加し、認知症、孤独死など独居老人問題と呼ばれ社会問題となっている。
ますます少子高齢化が進む中で、介護師や家族にとっても大きな負担となっている現状だ。

私はボランティア活動を通して実感した上記の現状と、過去の実体験を通し、数年前からこの問題の解決に取り組んでいる。



3年前、私は過去の自分が最も欲しかった発想を元に、対孤独用コミュニケーションデバイスを開発した。


身長40cmの人型2足歩行ロボットであり、独自の工夫により様々なポーズによる感情表現が安定して可能である。その自由な動きだけでも、youtubeで世界で約4万回再生されている。


  

しかしこれは、人工知能で動くロボットではない。内部にカメラとスピーカー、マイクを内蔵し、身体が不自由あるいは入院や療養中で部屋から出ることができない人が、遠くに住む家族や友人と“共に居られる、一緒に何かができる“事を目的とした”分身ロボット“だ。


実験では、これを遠くに住む私の知人が遠隔操作し、食事の席に参加した。私の知人はまるで実際に参加できたように感じ、またロボットを囲む周りの人間も、そこに操縦者がいるような感覚になったという実験結果が得られた。

私はこのロボットを、完成時期が7月だった事もあり、七夕伝説の会いたい人に会いたいという願いを込めて「OriHime」と命名した。


食事の席での実験

1年半前、大学で経営学を専攻しており、また入院経験のある結城と共により多くの人に使ってもらうためのプロジェクトを開始した。
制御が難しく未だ扱い辛い人型から、操作が簡単で安価である最低限の機能を持つ小型バージョン「OriHime-mini」を新たに開発し、それを10台用意し、大学の研究機関や老人ホーム、病院で使っていただいた。


OriHime-mini


いくつかの病院などから是非欲しいという声をいただき、国内のビジネスコンテストなどで賞を受け、製品化しようと販売準備を行なっていたところ、「ブレークスルーキャンプ  by IMJ」の運営統括赤羽雄二さんと出会い、今回のスタンフォードE-Bootcampへの応募を勧められることとなった。

海外経験もほとんど無く、英語も得意でない私だったが、赤羽さんや結城らの強い勧めもあり参加を決めた。



◆E-Bootcamp2012の様子

E-Bootcampが始まる5日前の4月5日にカリフォルニア州に到着した。

今回のE-Bootcampの参加はOriHimeの大きな実験の機会でもあった。日本に居る仲間とイギリスに留学中の結城とで私のバックアップチームを作り、私が持つOriHime-miniデモ機でイベントに遠隔参加し、ビジネスプランブラッシュアップのサポートや、参加者とのコミュニケーション、専門用語の通訳などを行う。そのための準備をサンディエゴに住む友人の家で5日かけて行なった。


OriHimeを抱く結城


10日、パロアルトへ移動し、スタンフォード大学にてエントリーを行なった。
参加者の宿泊先は2人部屋の学生寮の部屋の真ん中にマットを敷いて間借りする形だ。運営委員が依頼したという。


10日は受付だけだったので大学の学生達と交流を深め、遠隔操作されたOriHimeを見せてコンセプトを説明し、反応、意見を伺った。


イベント期間中、OriHimeを毎日操作していたのはロンドン大学に留学中の結城である。結城は特別に用意した犬型のOriHimeの姿で交流会などの場に参加し、参加者らと交流した。


寮に到着してさっそく、寮の学生に犬姿の結城を紹介した。多くの学生は驚いて喜んでくれたが、コンセプトを話すと感動した一人の学生が他の学生や食堂にいた教授に私を紹介してくれ、一日目にして多くの人にプレゼンをする事ができた。


スタンフォードの学生寮


他のテレビ電話などと何が違うのか、将来的にこんな会社とのコラボが出来るなど、初対面の人が感想だけでなく、一緒に悩んで考え、意見を出してくれたのは日本では無かった事だ。また、軍事産業に使えると何人の人に言われたのも日本との違いだ。



11日はシリコンバレー観光ツアーだった。朝7時集合と確認のメールまで送ってきておいて、その時間丁度に行ったら誰も居ないのはお約束だ。雨の中30分待っていたら少々体調を崩してしまった。

各国の参加者らとバスに乗って自己紹介をしながらサンフランシスコへ移動、そこから徐々に南下しながら、会社を見学して回った。


移動中のバス車内




経営者の話を聞かせてもらえる会社もあり、専門的な英語は聞き取ることができなかったしここでOriHimeは使えないので結城の通訳も頼めなかったが、経営者の一人が投資家の協力を得るため、優秀な仲間を引き込むために必要な事として重要な事は?という問いに、

Passion is very importantThey are compelling! They believe and the other people to believe.
(情熱は非常に重要だ。彼らは、なにか人にさせる力がある。彼らは(自分たちのアイディアを)信じていて、周りの人間にも信じさせる力がある。)



と力強く言い切ったのが印象的だった。



Intelでは歴史ミュージアムを見て回った。世界各国から集まった学生らも私も興味津々だ。帰りのバスの中では意見交換していたのが静かになり、各々考えに耽っていた。


Intel歴史ミュージアム


Intel歴史ミュージアム



12日はキックオフバンケットだ。シリコンバレーツアーは国外参加者だけの特典で、国内の参加者はこの日からスタートである。

大きなホールに全参加者が集まり、ランダムにテーブルに座って食事をしながらビジネスプランの意見交換を行う。隣に座ったベトナムの参加者の女性が我々のプロジェクトに興味を示し、アイディアについて語り合った。


国によってはまったく家族の下に帰れない人もおり、孤独という問題は別に日本が特別というわけではなく世界共通の問題であると実感した。

周りでは様々な参加者が、手を広げ、または立ち上がってディスカッションを行なっていた。負けじとOriHimeも取り出し、テーブルの上でロボットが動くショーを行なった。


難しい英語が通じなくても興味を引くことが出来れば詳しく聞いてくれて、他の参加者を呼んでくれる。あとは事前に作っていった英語版のチラシと、OriHimeの姿をした結城の説明で伝える事ができた。



ただパーティー用にもう少し音量の出るスピーカーと良いマイクを用意する必要があるかもしれないと感じた。

その後、E-Bootcampのスポンサーでありシリコンバレーでも屈指の有名VCであるセコイアキャピタルのDouglas Leone氏の講演があった。


どうして人がそれを欲しいと思うのか説明できるか?どのように世界を変えるのか?


この言葉が私を一晩考えさせ続けた。深夜まで、OriHimeで日本とイギリスの仲間らとビジネスプランについて語り合った。

学生寮の間借りでは部屋で作業ができないので、主に私たちはラウンジのソファーで作業を行なっていた。


OriHimeがソファーで動いているとやはり目立ち、女寮生が3名集まってきて、そのまま結城を含めた4人で雑談を行う事が出来た。始めはOriHimeに人が注目し、1対3の形になるのだが、自然と普通の人間の会話と同じ四角系になるのは日本だけではない。


作業を行なっていたソファー

13日は、朝からコロラド出身の参加者と朝食を食べ、その後は一日中様々なKeynoteを受けた。中でも印象に残っている言葉を挙げたい


Keynoteの様子

it is important to know how to bring the product to the market and start learning from the customers. 
(どのように商品を顧客の手まで持っていくかが重要だ。そして、それができたら使ってもらって顧客からいろいろ学ぶのだ)



The developer should be close to the customer, should be “the customer”.
(開発者は顧客に近くの存在であるべきだ。開発者は「顧客そのもの」であるべきだ)



The important thing is willingness to solve the problem by your self
(重要なことは、君自身がその問題を解きたいと思うことだ)



私の本分はエンジニアである。工業高校を出て、高専で情報を学び、大学の機械工学を専攻し、過去の困っていた自分にとって本当に欲しいものを考え、デザインしてきた。




このE-Bootcampでベンチャーに大切なスピード感、より多くの人に使ってもらえる提供方法、投資家の事などベンチャー起業について考えさせられた事は多かったが、ビジネスと私の行なってきたものづくりへの考え方と同じである事は自信となった。

私のロボットのデザインを見て仲間に加わって欲しいと言ってきた環境ビジネスのプロジェクトがあったが、私にそのニーズと問題は実感したことがなく解らない。



その夜に開かれたMixerイベントではE-Bootcampの参加者、スタンフォードの学生だけでなく、シリコンバレー中の学生やビジネスを持っている人が参加し、ビジネスだけでなくお互いの文化などについて語り合っていた。


Mixerイベントの様子

私も得意の折紙を披露したところ、周囲に十数人が集まり、そこからOriHimeの話につなげ、ショーとしてのプレゼンを行った。折紙がよい掴みになり、普通に挨拶しているだけでは会えない数の人と会うことが出来た。その夜、寮に戻ってからはプレゼンの掴みを改良した。



◆ブレゼンテーションの日

14日と15日はプレゼンの日だ。参加者が部屋に別れメンバーを変えて2度プレゼンをし、その中から優れた人が最終日15日に開催されるFinal Pitchへの出場権を得られる。

プレゼンは日本でも何度も行なっていたが、このE-Bootcampに参加した事で感じ考えた事や反応の良かった伝え方を次々にビジネスプランに含めると15分でも収まらない内容になった。


そこから5分に収めるため、寮のラウンジで毎日仲間と情報を共有し、日本にいる仲間が徹夜でスライドを制作し、イギリスの仲間もまた徹夜でExecutive summaryを修正し続けた。

その甲斐あって、本番のプレゼンでは2台のOriHime-miniを動作させ、遠隔でオーディエンスの動きに反応させるデモを行ない、結城もイギリスからプレゼンに参加して話し、コンセプトを説明するとプレゼン最中に拍手喝采を受けることが出来た。



残念ながら、その深夜に配信されたFinal Pitch通過リストに私の名が入ることは無かった。


毎日が刺激的な経験の連続で、その刺激を自分たちのプランに落とし込み、プレゼンにする速度が必要な中、やはり英語力で他に大きく劣っていた事は認めざるを得ず悔しいところだ。


審査員からは販売戦略がまだ甘いが着眼点やビジョンは良く、とても面白いアイディアであるので是非続けて欲しいと言われた。

最終日に行われたFinal Pitchは、スタンフォード大学が綺麗に見渡せるホールで、皆でハンバーガーを食べながら行われた。コンテストというよりも文化祭のショーといった方がしっくり来る。


実際、ファイナリストは真剣だが厳かな雰囲気はなく、まるでライブの演奏者のような自信に満ち溢れたプレゼンテーションだった。


面白いウェブページを効率的に見つけられるシステム、オンラインライブラリ、ゲーム分析の会社、iPhoneアプリなどソフトウェアに特化したものが多い中、開発途上国での安全かつ大量の水の確保といったもの、牛の成長に関するもの、チュニジアなどのローカルな地域でのオンラインデートシステムの発達というバージョンもあり、文化、デモグラフィーの違いを感じられた。


参加者との記念撮影 (左が私)


E-Bootcampで出会った多くの参加者のプロジェクト、シリコンバレーで見学した会社に共通し、改めて実感させられるのは、まずそれぞれの地域、国に収まらず世界中を市場として視野に入れている事だ。


国内で完結するビジネスはもはやベンチャーとして通用せず、良いものを安く作るのではなく人が本当に必要とするサービスを、まったく新たな生き方の提供の可能性を提示できるベンチャーが世の中に求められている。


それは日本が得意とした良いものを追求する従来のものづくりではなく、人の暮らしを変化させ世界をより素晴らしいものへと昇華させる次世代ものづくりへの移行と言える。
人が活動するプラットフォームを提供するためのハードを含めたサービスを、私たちは世界に対し創っていかなくてはならない。


我々のOriHimeを中心とするビジネスプランもそのモデルと目標を大きく変更、修正する事が出来た。今後はまだ詳しく言えないが、世界中の身体が不自由な人の夢を応援するサービスを展開していくつもりだ。


最後に、E-Bootcamp2012への参加という貴重な機会をいただきました、株式会社IMJインベストメントパートナーズ、ならびに赤羽雄二様に、深く御礼申し上げます。







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